北海道唱歌 南の巻




北海道唱歌 南の巻

作詞 大和田建樹
作曲 田村虎蔵

1
 千里の林万里の野
 四面は海に囲まれて
 わが帝国の無尽庫と
 世に名指さるる北海道
 
2
 四月に雪の消えしより
 夏まで春の花咲きて
 わが帝国の楽園と
 人に呼ばるる北海道

3
 いざひとめぐり見て来んと
 津軽海峡後にして
 巴の形に漕ぎいれば
 ここぞ渡島の函館港

4
 出船入船(でふねいりふね)暇もなく
 商業貿易北海の
 関門占めたる土地ぞとは
 知らるる市街の賑しさ

5
 是(これ)より乗り込む汽車の窓
 見かえる臥牛(がぎゅう)の山消えて
 緑はてなき牧場も
 秋は桔梗(ききょう)の花ざかり

6
 人参植えて杉植えて
 百年近くの昔より
 開墾せられし七飯村(ななえむら)
 農産よそには勝(すぐ)れたり

7 
 馬車の便ある本郷の
 十四里西に江差あり
 岩内寿都(いわないすっつ)ともろともに
 北海屈指の良き港

8
 トンネル出でて眺むれば
 周回八里の大沼に
 喪裾(もすそ)をかけてそびえ立つ
 渡島の富士もおもしろや

9
 森に出づれば旅人の
 眠気も覚むる噴火湾
 晴れたる日には薄青く
 有珠の高嶺もほのみえて

10
 海辺づたいに早いつか
 過ぐる胆振(いぶり)の国境
 八雲に続く国縫(くんぬい)は
 満俺(まんがん)鉱山所在の地

11
 鰯 鰈に法貴貝(ほっきがい)
 海産多き長万部(おしゃまんべ)
 南部陣屋の跡すぎて
 はや後志(しりべし)の黒松内

12
 尻別川の水の声
 聞きつつ上る岸づたい
 岩おもしろく山深く
 若葉紅葉のながめあり

13
 紅葉のごとき赤心(せきしん)を
 桜の如く香らせし
 阿部の比羅夫(ひらふ)の忠勇を
 記念に残す比羅夫駅

14
 仰ぐ雲間に雪しろく
 つもるは蝦夷富士(えぞふじ)羊蹄山(ようていざん)
 登れ人々陸奥湾
 一目に見ゆる高嶺まで

15 
 裾野は倶知安大原野
 オンコ椴松(とどまつ)楢桂(ならかつら)
 林は天を打ち掩(おお)い
 面積ほとんど三十里

16 
 ここを開きて耕して
 作りし村は年年(としどし)に
 栄えて朝夕立ちまさる
 煙あまねく民ゆたか

17
 されど秋すぎ冬の来て
 北風雪の吹く時は
 汽車ゆく道さえ埋もれて
 寒さに泣くはこの付近

18
 鉱山名高き然別(しかりべつ)
 林檎の実のる余市
 夕風さむく秋ふけて
 紅ならぬ枝もなし

19
 蘭島塩谷の海辺には
 楽しき海士の里見えて
 鰊あみ引く春の日の
 賑わい言葉につくされず

20
 土地の話を耳に聞き
 かわる景色を目に見つつ
 慰む程に呼ぶ声を
 聞けば小樽か早ここは