一畑輕便鐡道唱歌



一畑輕便鐡道唱歌

作詞 来間泰三郎 園山良之助
作曲 天野よし子

 院線出雲今市の
 駅を起点の軽鉄は
 これぞ日本一畑の
 薬師へ僅か一時間

 右に山王 女子師範
 左に近き大念寺
 東山なる遊園は
 春秋共に眺よし

 電気会社も過ぎぬれば
 ほどなく留る大津町
 名高き県立果樹園や
 大津饅頭 木村餅

 大梶翁の遺跡なる
 来原岩樋ほど近く
 いにし神代もしのばれて
 こゝは武志の停留場

 藁屋白壁こゝかしこ
 馬手に三里の武志土手
 つゞく稲田は簸の川の
 富を知らする川跡村

 かなたに見ゆる古城山
 麓は鳶ヶ巣停留場
 おとに名高き国宝の
 大寺薬師も遠からず

 美談七反一帯の
 櫨の紅葉のトンネルの
 下をくゞるも心地よく
 こゝは旅伏の停留場

 仰げば高し旅伏山
 風土記に見えし烽火台
 国の鎮めと残りてし
 国富村の要石

 やがて出雲の工業地帯
 雲州平田の駅につく
 名物饂飩に生姜糖
 銘酒味醂やあられ酒

 羽二重機の音さえて
 両全製糸の煙突は
 高く聳えつ商標の
 力士軍配ほまれあり

十一
 名高き山口整骨院
 平田天神 瑞雲寺
 出入る人のたえまなく
 軽鉄本社もこゝにあり

十二
 愛宕の山に登り見よ
 湖山十里の一眺め
 築地の松の色ふかし
 今宵はこゝに宿からん

十三
 朝餉の煙立ちなびき
 民のかまども賑わえる
 灘分村を過行けば
 やがて布崎停留場

十四
 連続開渠も珍しく
 高くかゝげる鉄橋や
 布経の松も年ふりて
 一文渡し名もおかし

十五
 船川渡れば東村
 宍道湖岸の蘆の葉を
 わたる春風暖く
 来るは園の停留場

十六
 ゆきかう白帆数見えて
 うつる南の山の影
 あかぬ眺めのうるわしく
 いつしか過ぐる鹿園寺

十七
 霞たなびく佐比売山
 雪にみがける出雲富士
 かよふ汽船の笛のねに
 はやも小境灘の駅

十八
 爪先上り道すぐに
 谷間を進むおもしろさ
 石の鳥居の奥深く
 名も香しきさかの宮

十九
 神等あまた打集い
 御厨たてゝ百八十日
 御酒をかもして楽しくも
 さかもりありし佐香の郷

二十
 山懐をわけ入れば
 地蔵の松や不動瀧
 流も清き手水川
 一畑駅にはや着きぬ

二十一
 石のきざはし八町を
 登ればこゝに目の曇
 やがて晴行く医王山
 瑠璃光如来おわします

二十二
 一千余年のその昔
 釣を垂れにし海人が目に
 かがやく光 海の底
 出現ましゝ霊像や

二十三
 香の煙は堂に満ち
 唱うる呪文響きあり
 げにや日本一畑と
 仰がぬものやなかるなん

二十四
 乗り来し全線 見かえれば
 平野を過ぎて町過ぎて
 みづうみ眺め山ながめ
 げにおもしろの景色やな