箕面有馬電車唱歌



 東風(こち)ふく春に魁(さきが)けて
 開く梅田の東口
 行きかう汽車を下に見て
 北野に渡る跨線橋

 業平塚や萩の寺
 新淀川の春の風
 十三堤の野遊びに
 摘むやたんぽぽ五月花

 三
 菜種の花の道ゆけば
 眼にも三國の発電所
 煙に空をあとに見て
 牛立三屋服部の

 天神宮へ初詣
 鳥居を出でて東には
 住吉神社の森深く
 天竺川の松涼し

 名も高臺の岡山に
 芦田ヶ池の水鏡
 霞の中に岡町を
 過ぎて若葉の麻田川

 歌に名高き玉坂や
 待兼山も窓近く
 その一聲(いっせい)のほととぎす
 わたる石橋分岐點(てん)

 右にわかれて箕面路に
 秦野(はたの)のつつじ櫻井の
 藥師(やくし)淸水(しみず)の八重櫻
 散りし瀬川の古戦場

 ラケット形の終點に
 止まる電車をあとに見て
 行くや公園一の橋
 渡る波間の水淸く

 溯り行く源の
 靑葉(あおば)の雲に霧こめて
 夏尚寒く雪も散る
 瀧の高さは二百尺

 紅葉の中の辨天(べんてん)や
 札所の一の勝尾寺
 遥かに拜(おが)みし奉り
 再び戻る分岐點

十一
 尊鉢才田右に見て
 池田の町の新市街
 呉服神社に五月山
 麓を流れる猪名川

十二
 能勢の妙見伏し拜み
 錢(ぜに)屋五兵衛の塚近く
 南に開く山の影
 新たに植えし花屋敷

十三
 木部(きのべ)平井や山本に
 四季薔薇くさの花畑
 長閉に響く夕暮れの
 鐘は中山観世音

十四
 紫雲棚曵(び)く山の端に
 梅の香りの米谷(まいたに)や
 清荒神かみさびて
 武庫川千鳥走りゆく

十五
 早き電車の終點に
 集まり來(きた)る都人
 土産も重き寶塚(たからづか)
  樂み多きゆきき哉(かな)